Articles
Optics
Holography
Interactive
ホログラムは、何もない場所に何を作っているのか
何もない空間に見える像は、どこで作られるのか。鏡・真空・虹・干渉を経て、目に届く波面へたどり着きます。
HERO QUESTION
問いを、もう少し深く。
何もない空間に立体が見える。そこに何かが光っているのだろうか。それとも、見ている私たちの側で何かが起きているのだろうか。鏡、真空、虹へと寄り道しながら、はるかとかなたが「像のある場所」を問い直す。
1|何もないのに、何が見えている?

かなた
ホログラムって、何もないところに立体があるように見えるよね。あそこには何があるの? 光る物も、光を反射する物もないなら、何を見ているんだろう。

はるか
普通の物なら、物体が出した光や、物体で反射・散乱した光が目へ届く。でも、そこに物体がなくても、同じような光が目に届く場合はありそう。

かなた
「同じような光が届く」だけで、光を出した場所まで違って見える?

はるか
鏡がその例になりそう。鏡の奥に人はいないのに、奥から光が来たように見える。
2|像がある場所に、物質は必要か

かなた
鏡の像なら分かる。でも、鏡の裏という決まった場所だよね。真空の容器の中に像を作ったら? そこには光を散らす空気もない。

はるか
レンズや鏡で光を集めれば、真空中のある位置を通過する光束は作れる。その先に目を置いて、像を作る光を受け取ることもできる。ただし、横からどこに目を置いても、その場所が光って見えるわけではない。

かなた
なるほど。像の位置と、光が曲げられたり反射したりした位置は、同じでなくていい。覗き込む装置だと、目を入れてよい場所も決まるんだ。

はるか
実像は光が実際に集まる位置、虚像は届いた光を逆向きにたどると出発したように見える位置。どちらも、「その位置に発光する物がある」とは限らないね。
3|平らな板なのに、なぜ立体になる?

かなた
ホログラムの記録されている板は薄い。それなのに、本当に奥行きがあるの? 絵を立体に見せているだけ?

はるか
通常の写真は、面上の位置ごとに明るさや色を記録する。ホログラムでは、物体から来る光を参照光と重ね、干渉でできる細かな模様に、波の振幅と位相に関する情報を記録する。

かなた
板に鼻、目、耳の絵がそのまま並んでいるのとは違うんだね。

はるか
うん。適した光を当てると、その構造による回折で、元の物体から来た波面に対応する光を再生できる。観察位置によって届く光が変わるので、視差や奥行きの手掛かりを得られる。どれだけ再現できるかは、記録範囲や再生条件にもよる。
4|表面を削るのか、内部を変えるのか

かなた
その板は反射するの? 光が通り抜けるの? 表面の角度を場所ごとに変えた小さな鏡の集まり?

はるか
透過型も反射型もある。模様の持ち方も、光の通しやすさ、表面の微細な凹凸、材料内部の屈折率変化など、いくつもある。

かなた
だったら、鏡の角度だけで説明すると足りないね。

はるか
そう。細かい構造を通った光の重ね合わせ、つまり回折として考える必要がある。記録するときの干渉と、再生するときの回折・波面再生を分けると、板の役割が見えてくる。
5|レーザーでないと駄目なのか

かなた
ホログラムというとレーザーが出てくるけれど、それが定義なの? LEDや太陽光では駄目?

はるか
古典的な記録では、物体光と参照光の位相関係が安定していると細かい干渉模様を記録しやすい。レーザーはそのために都合がよい。ただ、ホログラフィの考え方はレーザーの登場前に生まれているし、白色光で見られるホログラムもある。

かなた
記録に使う光と、見るときに使う光を一緒にしていた。何を作り、どう再生するかで条件が変わるんだ。

はるか
光源の広がりや波長の幅が大きいと、像のにじみや色のずれも起こる。白色光で見えるようにした仕組みには、その条件に合わせた設計がある。
ホログラフィの発案者デニス・ガボールの講演は、記録と再生の考え方、その後のレーザーによる発展をたどっている。Gabor, Nobel Lecture
6|虹も、空中に見えるけれど

かなた
空中に見えるだけなら、虹も似ている。水滴でホログラムを作っているの?

はるか
虹では、水滴による屈折・内部反射と、波長ごとの屈折の違いで、特定の方向に色の光が届く。特定の物体の波面を記録し、再生しているわけではない。

かなた
水滴の形を変えたら? ガラスやクリスタルで、もっと自由な色の形を作れる?

はるか
形や配置を変えれば、出てくる光の方向や明るい場所は変えられる。でも、人工的な色模様ならすべてホログラムということにはならない。屈折で光路を設計する方法も、回折で波面を設計する方法もある。

かなた
自然か人工かより、光に何をさせているかを見るんだね。
7|通り抜ける光が、なぜ干渉する?

かなた
そこでまた分からなくなった。光は交差しても互いに通り抜けるはず。なのに重なると干渉するのは、ぶつかって何かが変わるからではないの?

はるか
日常的な強さの光を線形な光学として扱う範囲では、重なった場所の電場は足し合わせられる。強さを求めるときに、その足し算の結果が効く。位相がそろう場所では明るく、逆になる場所では暗くなる。

かなた
通り過ぎたあとにも、「干渉済みの光」という状態が残る?

はるか
重なったことで一つの塊へ融合し、そのまま運ばれるわけではない。それぞれの波は進み続ける。干渉模様が安定して観測できるかは、位相関係、偏光、観測時間にもよる。
8|空中の明るい交点を、横から見る?

かなた
では、空中で光を交差させて明るい点をたくさん作り、それを横から見れば像になる? ずっとそう想像していた。

はるか
その想像だと、明るい場所から横向きに光が出る仕組みが抜けている。そこに干渉があっても、その光が横に置いた目へ届かなければ見えない。

かなた
「その場所に強度がある」と「どこからでもそこが見える」は違うのか。

はるか
煙や微粒子を置けば、散乱した一部が横へ届く。ただ、それは散乱体という別の仕組みを足した結果。通常のホログラムは、空中の交点を横から見せているのではなく、ホログラムから出た光を目へ届ける。
9|鼻と耳を、どうやって取り出す?

かなた
ホログラムの小さな場所にも、物体のいろいろな部分から光が来るよね。再生するとき、鼻の情報と耳の情報をどう分離するの?

はるか
鼻や耳を認識して取り出す処理を、板がしているわけではない。記録された構造から出る波が全体として重なり、物体から来た光に対応する波面を作る。

かなた
だから、ホログラムを一部だけ残しても、像の一部だけが切り取られるとは限らない。

はるか
その領域に物体の各部分から光が届いていれば、全体像の情報が残り得る。ただし、小さな破片でも元どおり、という意味ではない。開口が小さくなれば光量、解像度、見える角度が制限されるし、遮蔽されて記録されなかった部分は取り戻せない。
10|普通に見ることの方が、少し違って見えた

かなた
最初は、何もないところに特殊な光る物を作る技術だと思っていた。でも、目が受け取っているのは、普通の物を見るときも光なんだ。

はるか
本物があるときは、物体で反射・散乱した光が目に届く。ホログラムでは、その光の状態を、物体なしで再現しようとする。

かなた
像の場所を光らせることだけが方法ではない。そこに物体があったときに来るはずの光を、目へ届ける。その方向から考えると、最初の疑問が変わるね。
空間に像を見せる方法を、仕組みで分ける
「空中ディスプレイ」「立体映像」は広い呼び名で、すべてがホログラムではない。比較するときは、表示の見た目だけでなく、光を作る場所と目へ届ける仕組みを見る。
方法 | 光学的に起きていること | 確認したいこと |
|---|---|---|
鏡・レンズなどによる結像 | 光路を曲げ、実像や虚像を作る | 視点を動かせる範囲、像の前後関係 |
ホログラフィ | 微細構造の回折によって波面を再構成する | 記録・再生波長、開口、視差、再生条件 |
霧やスクリーンへの投影 | 媒体が光を散乱し、目へ届ける | 像の面や体積に実際に媒体があるか |
体積表示 | 体積内の位置に発光・散乱する表示点を作る | 表示点の作り方、遮蔽や奥行き表現 |
AR表示 | 光学系で映像光を目へ届け、外界と重ねる | 波面再生を使う方式か、別の結像方式か |
これは探索後の整理であり、各方式の性能が同じだという表ではない。ARにも複数の光学方式があり、ホログラフィと分類が重なる場合がある。
手を動かして確かめる
鏡の虚像シミュレーターでは、目を動かしても像の位置が鏡の奥に定まることと、実際に通る光路を分けて見られる。光の干渉シミュレーターでは、重なる前・重なっている間・通過後を比べてほしい。どちらもホログラム全体の再生計算ではなく、今回つまずいた二つの要素を調べるための実験である。
鏡の像はどこにあるのか
物体と観察者を動かすと、鏡で反射する光の経路は変わっても、虚像の位置が一つに定まることを確かめられます。
シミュレーターを開く
