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虹はなぜ二重に現れることがあるのか

なぜ雨域全体が虹色にならず、二本の円が見えるのか。一滴の光路から観察者Qの円錐まで往復します。

HERO QUESTION

虹はなぜ二重に現れ、色の順序が逆になるのか?

虹はなぜ二重に現れ、色の順序が逆になるのか?

問いを、もう少し深く。

はるか

「かなた、この前こんな質問が来ていたわ。『虹って、どうして二重に出ることがあるんですか?』」

かなた

「答えだけなら知ってる。主虹は一回内部反射、副虹は二回内部反射。でも、それで分かった気にはならないんだよな」

はるか

「普通の虹そのものから怪しい?」

かなた

「そう。プリズム一個なら想像できる。でも空は雨粒だらけだ。手前にも奥にもあるし、散乱光だっていろんな方向から来る。それで、なんで一つの虹になる?」

はるか

「直射日光は、太陽が非常に遠いからほぼ同じ方向から来る平行光として扱えるわ」

かなた

「待て。それだけで終わらせるのは雑じゃないか。影の中でも物は見える。空や地面から散らされた光は別方向からも来てるだろ」

はるか

「……確かに。“他方向の光はない”ではないわね。散乱光はある。ただ、方向ごとの強さが違う。虹をはっきり作る主役は方向の揃った直射成分」

かなた

「“存在する/しない”じゃなくて、“どの方向からどれだけ強く来るか”か」

かなた

「じゃあ次。虹の赤いところを見ているとき、俺は何を見てる?」

はるか

「条件を満たした雨滴を通った光が、あなたの目へ入っている」

かなた

「空のどこかに色が投影されていて、それを見ているわけじゃない?」

はるか

「スクリーンはない」

かなた

「ここ、さらっと答えると危ない気がする」

はるか

「どうして?」

かなた

「“見る”って感覚は、こっちから対象へ目を向けるだろ。だから頭の中では、空のあそこに虹という色の付いたものがあって、そこへ視線を向けている模型になりやすい」

はるか

「でも光学的な矢印は逆ね。目が虹へ何かを飛ばしているのではなく、雨滴を通った光が目へ来る」

かなた

「……いや、まだ足りないな」

はるか

「何が残ってる?」

かなた

「仮に、俺の背中側に太陽があって、目の前一面に雨粒の壁があるとする。太陽光はほぼ平行だから、その壁全面に同じように当たるだろ?」

はるか

「ええ」

かなた

「だったら壁にある雨粒は、全部で屈折も内部反射も起こしてるはずだ。だったら壁全面から虹色の光が返ってきて、目の前全部が虹色にならないとおかしくないか?」

はるか

「……そこね。“全部の雨滴で虹を作る光路が起こり得る”ことと、“全部の雨滴からその光があなたの目に入る”ことを同じにしている」

かなた

「でも、壁全面に同じ太陽光が当たってるんだぞ。雨粒側の条件は同じじゃないのか?」

はるか

「太陽から雨滴までの条件はほぼ同じ。でも、雨滴からあなたの目Qまでの方向は、壁の場所ごとに違う」

かなた

「ああ。俺の目を一点Qに固定するのか」

はるか

「そう。ここで初めて“どの雨滴がQに見える虹を作るか”を選べる。壁の中央の雨滴からQを見る方向、少し上の雨滴からQを見る方向、もっと外側の雨滴からQを見る方向は全部違うでしょう」

かなた

「つまり、雨滴全部で光路は起きている。でも主虹の赤なら、最終的に赤い光がQへ来る角度条件を満たした雨滴だけが、俺には赤く見える」

はるか

「そう。他の雨滴からも光は出ている。でも、その虹の強い光はQを外れる。別の場所にいる観測者には届くかもしれない」

かなた

「なるほど。壁全面が虹色にならない理由は、“壁のどこで虹が起きているか”じゃなくて、壁のどこから出た虹の光が、この一点Qに入るかで選別されるからか」

はるか

「その通り」

かなた

「じゃあ、その選ばれる場所がなんで円になる?」

はるか

「Qから反太陽方向を基準にして、主虹の赤が見える角度を仮に約42°とする。Qから見て、その基準方向から42°離れた場所は一か所じゃない。上にも、斜め上にも、横にも、ぐるっと一周ある」

かなた

「だから、雨の壁の中で“Qから42°に見える場所”を全部拾うと円になるのか」

はるか

「ええ。雨を三次元に広げれば、Qを頂点として反太陽方向を軸にした円錐面になる。その円錐面上に雨滴があるところから、主虹の光がQへ届く」

かなた

「つまり円が雨の壁に貼り付いてるんじゃない。Qという一点を決めた瞬間に、“Qから42°になる雨滴群”が円として選ばれる」

はるか

「そしてQが横へ移動すれば?」

かなた

「新しいQから42°になる別の雨滴群が選ばれる。虹そのものが壁に固定されてるわけじゃない」

はるか

「そこまで来れば、“空に色の帯が投影されている”模型とはかなり違って見えるでしょう」

かなた

「うん。俺が見ている虹は、空に置かれた物体じゃなくて、自分の位置を基準に選ばれた雨滴から入ってくる光の方向分布なんだな」

図1|太陽は観察者の背後。前方の雨域のうち、虹光がQへ届く雨滴を見る。

図1|太陽は観察者の背後。前方の雨域のうち、虹光がQへ届く雨滴を見る。

かなた

「俺自身も最初、見た目が巨大な円弧だから、物理空間にも同じサイズの何かがある感じだったんだよな。極端に言えば、直径数百メートルの巨大な雨粒とか、巨大な円弧状の発光源とか」

はるか

「見た目の大きさを、そのまま一個の物体の大きさとして考えていたのね」

かなた

「でも今なら、さっきの雨の壁を奥行き方向へ広げればいいのか」

はるか

「そう。実際の雨滴は一枚の壁ではなく、100メートル先にも500メートル先にもある」

かなた

「でも同じQから見て同じ方向なら、距離が違っても視野では重なり得る」

はるか

「そこで“距離”と“方向”を分ける。一定の観測角を実空間へ伸ばすと、Qを頂点にした円錐面になる」

かなた

「斜めの薄い雨幕でその円錐を切ったら、楕円っぽい交線になることもある?」

はるか

「ある。ただし、それは特定の雨面を仮定したときの交線。虹そのものが巨大な楕円物体として浮かんでいるわけではない」

図3|観察者を頂点とした円錐面。斜めの雨面との楕円状交線は条件付きの模型。

図3|観察者を頂点とした円錐面。斜めの雨面との楕円状交線は条件付きの模型。

かなた

「でも、“一定の角度に見える”ってところもまだ知識っぽい。球のどこに当たるかで法線が変わるなら、出てくる方向も無段階に変わるはずだろ」

はるか

「実際、無段階に変わるわ」

かなた

「じゃあ、なんで特定角度だけ虹になるほど明るい?」

はるか

「入射位置を少しずつ変えて最終出射方向を追うと、あるところで出射角の変化が鈍くなる。入力位置を動かしても、出力方向があまり動かない領域ができるの」

かなた

「角度が離散的に42°へ飛ぶんじゃなく、連続な出力の中で42°付近だけ密度が上がる?」

はるか

「その理解が正確。偏向関数の定常点付近で、近い入射条件の光が狭い角度範囲へ集中する。幾何光学ではcausticとして扱う」

入射位置を少し変えても出射角があまり変わらない付近には、多くの光線が集まります。「42°だけの光路」ではなく、連続する光路の中に明るさの集中ができます。

かなた

「で、同じ一滴の中でも光路は一種類じゃないよな?」

はるか

「どういう意味?」

かなた

「水と空気の境界に来た光は、一部が外へ出て、一部が内部反射する。一回反射して出るやつもいれば、二回反射してから出るやつもいる」

はるか

「ええ。三回、四回の経路も原理上は存在する」

かなた

「そこで主虹が一回、副虹が二回か」

はるか

「そう。同じ種類の水滴に、別の反射次数の経路が存在する」

図2|同じ水滴に存在する、一回内部反射と二回内部反射の経路。

図2|同じ水滴に存在する、一回内部反射と二回内部反射の経路。

はるか

「ここまでなら、主虹は約42°、副虹は約50〜51°付近――」

かなた

「待て。それ、まだ二重虹を説明し切ってない」

はるか

「反射回数の違いでは足りない?」

かなた

「足りない。“二回反射する光もあります”までは一滴の話だろ。俺が知りたいのは、なぜ俺の視野の中で二本の輪になるのかなんだ」

はるか

「……確かに。さっきのQで考えましょう」

かなた

「主虹の一回反射光は、Qから約42°になる雨滴群が選ばれる」

はるか

「そして副虹の二回反射光は、別の集中角を持つから、Qから約50〜51°になる別の雨滴群が選ばれる」

かなた

「つまり雨の壁全面の中から、一回反射光をQへ送る円と、二回反射光をQへ送るもっと外側の円が、同時に選ばれるわけか」

はるか

「三次元なら、開き角の違う二つの円錐面ね」

かなた

「だから“一本目の虹を作った後で二本目が追加される”わけじゃない。同じ太陽光、同じ雨域の中で、Qへ届く条件の違う二つの光路族が最初から同時に存在している」

はるか

「それが二重虹の核心ね」

かなた

「しかもQが移動したら、二本とも新しいQを基準に選び直される」

はるか

「ええ。だから虹は観測者依存なの」

かなた

「42°/51°っていう角度も、ここまで来ると意味がはっきりするな」

はるか

「ええ。雨滴表面の単一の屈折角でも、内部反射角でもない。観測者Qから見た反太陽方向からの角距離」

かなた

「前に横向きの扇形で描いたのは?」

はるか

「今回の理解には不適切だった。上側の虹を見る縦断面なら、反太陽方向を0°として、主虹側の視線と副虹側の視線を高さ方向に分けて描く方が誤解が少ない」

かなた

「副虹の方が外側だから、上側では高く見える」

はるか

「そう。ただし地平線からの仰角そのものではない、という点は固定ね」

図4|観測者の反太陽方向を基準にした角距離。約42°/約51°は雨滴表面の反射角でも、地平線からの仰角でもない。

図4|観測者の反太陽方向を基準にした角距離。約42°/約51°は雨滴表面の反射角でも、地平線からの仰角でもない。

かなた

「色の順番が逆になるのも、“空の帯に色を塗る”で考えない方がいいな」

はるか

「その通り。主虹の赤なら、赤の光をQへ送る角度条件を満たす雨滴群。紫なら、少し違う角度条件を満たす別の雨滴群になる」

かなた

「だから一本の虹の中でも、赤と紫は厳密には同じ雨滴の場所を見ているわけじゃないのか」

はるか

「そう。観測方向が少し違う。主虹では赤が外、紫が内。副虹では紫が外、赤が内」

かなた

「水の分散そのものが逆になるわけじゃない?」

はるか

「ならない。内部反射が一回増えることで、波長と最終観測角の対応順が反転する」

図5|各波長で光が集中する代表経路。主虹は赤が外側、副虹は紫が外側。

図5|各波長で光が集中する代表経路。主虹は赤が外側、副虹は紫が外側。

図の角度は球形水滴の説明用代表値です。主虹は赤約42.4°・紫約40.6°、副虹は赤約50.4°・紫約53.5°。会話中の「副虹約50〜51°」は帯全体の一定値ではありません。

かなた

「最初は“雨の壁全面に太陽光が当たるなら、全面が虹色になるはずだ”って思ってた」

はるか

「今は?」

かなた

「全部の雨滴で屈折や内部反射は起きている。でも、俺という一点Qに対して、その色の虹光を送る角度条件を満たす雨滴だけが見える。その条件が円状だから虹も円になる」

はるか

「二重虹は?」

かなた

「一回反射と二回反射でQへ届く集中角が違う。だから同じ雨域から、Qを基準に半径の違う二つの雨滴群が同時に選ばれて、二本の虹として見える」

はるか

「“空に何本の虹が置かれているか”ではなく、“この一点Qへ、どの雨滴から、どの角度で、どの光路の光が入るか”へ模型が変わったわけね」

かなた

「うん。『一回反射と二回反射』だけ知ってたときとは、同じ二重虹でも全然違って見える」

Simulator|雨滴から、観察者Qまで

Rainbow 3Dで確かめる

初めは太陽・雨域・観察者を一緒に見て、次にQの位置を変えます。自分から見える円が移るとき、選ばれる雨滴群も変わります。一滴の光路へ進んだら内部反射回数と波長を切り替え、全体の円錐へ戻ってください。一滴と虹全体を往復することが、この問いの要です。表示の角度許容幅は見つけやすさのための幅で、自然の虹の幅そのものではありません。

Deep Dive|虹の「幅」は何で決まる?

出射方向は連続しており、「42°だけしか光が出ない」わけではない。

水の屈折率は波長で異なるため、赤と紫ではcausticの角度そのものが少し違う。この波長分散による角度差が色帯の基本的な幅を作る。

さらに各波長の虹は無限に細い線ではなく、波動光学的なAiry構造、太陽の有限角径、雨滴径・滴形状・滴径分布などによって幅を持つ。

したがって、

虹の幅 = 42°±数度のランダムなぼやけ

ではない。

実際の大きな雨滴は完全な球ではなく、風や落下による変形も受けます。今回の主虹・副虹の説明は、球形水滴の幾何光学を基礎にしています。高次の虹もありますが、三本目以降が主虹・副虹の外へ順番に並ぶわけではありません。

主虹と副虹:米国国立気象局/自然の虹におけるMie理論とAiry理論:Lee, Applied Optics, 1998

雨滴と観測者から見る虹

観測者の位置と視点を変えると、光を返す雨滴の集まりが円錐や虹の円弧として見える理由を確かめられます。

シミュレーターを開く

PHOTONICS ATELIER IINAGA

光を知る。考える。つくる。 — Science, Technology & Art

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