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物体の「色」は、どこに存在するのか
赤はリンゴの中か、光の中か。照明・反射率・錐体・順応を分け、色という知覚が成立する条件を見直します。
HERO QUESTION
問いを、もう少し深く。
暗闇のリンゴは赤いのだろうか。照明、物体、目、そして知覚を順に分けていくと、「赤がある場所」という問いが少し変わる。
1|暗闇でも、リンゴは赤い?

かなた
リンゴが赤いと言うけれど、真っ暗でも赤いの? 赤はリンゴの中にあるのか、当たる光の中にあるのか。

はるか
光が目に届かなければ、赤く見える経験は起きない。でも、リンゴが光の波長ごとにどれくらい反射するかという性質は残る。

かなた
「赤い物体」は、ある照明と観察条件で赤く見える物体を、短く呼んでいるんだね。赤い何かが果肉に収納されているわけではない。
2|目は、波長の番号を読んでいる?

はるか
目に届いた光は、網膜の視細胞で受け取られる。明るい条件での色覚では、主にS・M・Lの三種類の錐体の反応が関係する。視物質にはオプシンとレチナルが関わり、光による分子の変化が信号へつながる。

かなた
Sが青、Mが緑、Lが赤をそれぞれ専用に測る?

はるか
きれいに三つへ仕分ける検出器ではない。感度の範囲は広く重なっていて、同じ光が複数の錐体を反応させる。波長の番号を一つずつ読んでいるのではなく、反応の組み合わせになる。

かなた
一つの錐体の反応だけなら、弱い光への高い感度と、強い光への低い感度を区別できない。組み合わせが必要なんだ。
錐体の重なった分光感度は、CIEのLMS錐体基礎関数で確認できる。
3|受け取り方が違えば、色も違う?

かなた
感度が違う人や、四種類の錐体色素を持つ人なら、見える色の世界も変わる?

はるか
受容体の違いは関係する。ただ、色素が四種類あることと、それを独立した四つ目の色の軸として使えることは同じではない。受け取った信号を神経系がどう利用するかまで必要になる。Jordanらの四色型色覚の研究でも、この区別が調べられている。

かなた
では、物体だけを固定しても、「誰にでも全く同じ色がある」とは言い切れないね。
4|物体の前に、光源を変えてみる

はるか
次は目から物体側へ戻ろう。同じ反射率のリンゴでも、当たる光のスペクトルが変われば、返ってくる光は変わる。

かなた
物体が反射しやすい波長でも、照明にその成分がなければ、反射して目へ送れない。

はるか
単純化した不透明物体のモデルでは、光源の分光分布と物体の分光反射率を掛け合わせて、届く光のスペクトルを考えられる。実物では観察方向、表面の光沢、蛍光や透過など、別の条件も加わる。
5|同じ「白」なら、同じ光?

かなた
太陽光も、赤緑青を混ぜた光も、白色LEDも、白く見える。同じ白なら物体も同じに見える?

はるか
白く見えることと、波長ごとの量が同じことは別。広い範囲に成分を持つ光も、いくつかの山を組み合わせた光も、条件によって同じ白に見える。そこへ同じ物体を置くと、反射率との掛け算が違う結果になる。

かなた
白い紙では区別できなくても、色のある物では差が出るかもしれない。

はるか
異なるスペクトルが指定した観察条件で同じ色に見える関係を、メタメリズムとして扱う。照明や観察者の条件が変われば、その一致が崩れる場合がある。CIEのメタメリズムの定義
6|目とカメラは、同じ補正をする?

かなた
でも、電球の下で紙を見ても、毎回オレンジの紙とは思わない。

はるか
周囲の情報や照明への順応によって、物の色が比較的安定して見える色恒常性がある。ただし完全ではない。カメラのホワイトバランスも照明の影響を補正するが、センサーの感度も処理も人の視覚と同一ではない。

かなた
カメラの色を正しくしたつもりでも、実際にその場所で見た感じと違うことがある。補正前の測定値と、最終的に見せる色を分ける必要があるね。
7|同じドレス画像が、違う色に見える

かなた
青黒に見える人と白金に見える人に分かれたドレスの画像も、その境界の例か。

はるか
画像から照明をどう推定するかなどが、見え方に関係する例だね。ただし、全員の違いを一つの要因だけで説明できる、とまでは言わない方がよい。

かなた
「この服は何色だった」と話すときも、物体だけでなく、照明、画像、観察者の条件を飛ばせない。目撃した色の話まで飛びたくなるけれど、まず今はこの範囲で十分かな。
ドレス画像の知覚には大きな個人差が実測されている。Gegenfurtnerら「The many colours of the dress」
8|分光器なら、色そのものが分かる?

かなた
それなら分光器で測れば、客観的な本当の色が出る?

はるか
分光器が測るのは、波長ごとの光の分布。そこから標準的な観察者や条件を決めて、色を表す値を計算できる。ただ、赤く感じるという経験そのものを、そのまま測定しているわけではない。

かなた
物理量としてのスペクトルと、知覚としての色は対応するけれど、一対一ではない。最初に「赤は波長だ」と言って終わると、ここが抜けるんだ。
9|あなたの赤と、私の赤

かなた
そこまで分けると、他人の感じている赤と自分の赤が同じか、という問いも出てくる。

はるか
色合わせや識別の成績は比較できるけれど、主観的な経験そのものを直接交換して比べる話は、また別の問いになる。

かなた
今回はそこまで追わなくてよさそう。光源、物体、受け取る目、周囲を含めた知覚。それを一か所にまとめて「色がある」と考えていたところは分かった。
10|リンゴへ戻る

はるか
リンゴには分光反射の性質がある。光源にはスペクトルがある。目はそれを反応パターンへ変え、視覚は周囲も含めて色を成立させる。

かなた
だから最初の「リンゴか、光か」という二択だけでは狭かった。赤は一か所にしまってある物ではなく、物理的な条件と観察者の間で生まれる見え方なんだね。
同じ物体を、違う光で照らす
色はどこにある? シミュレーターで、まず物体を固定し、照明を太陽光に相当する分布、白熱灯に相当する分布、LEDやRGBのモデルへ変えてみよう。次に、届くスペクトル、S・M・Lの反応、順応を入れる前後の色を順に比べる。同じ白に見える光源でも、物体の色が必ずそろうわけではないことが分かる。
表示は標準的な感度と単純化した順応モデルによる推定であり、LED・RGBのスペクトルも例示用の形である。画面上の色はディスプレイにも依存する。色体験そのものや特定の人の見え方を再現する検査ではない。
探索記録に沿って構成した対話。今回は、受容から意識までをすべて説明し切ろうとせず、物理量と知覚の境界を確かめたところで閉じる。
色はどこにあるのか
光源と物体を切り替えると、目に届く光・錐体の反応・見える色が、光源から知覚までどうつながるかを確かめられます。
シミュレーターを開く
